この記事では、無痛分娩の際に用いる硬膜外麻酔、その副作用である硬膜穿刺後頭痛(PDPH)について実体験から紹介します。
インターネットで無痛分娩の副作用を検索すると、ひどい頭痛になった体験談や口コミを目にすることもありますよね。無痛分娩に対して不安になる方もいるのではないでしょうか。
また、まさに現在PDPHで苦しんでいて、情報を探していたらこの記事にたどりついた方もいるかもしれません。
そこで、何が原因で頭痛が生じたのか、治るのにどれくらいかかったかなど、気になる点を実体験をもとに紹介します。
この記事は、硬膜外麻酔の副作用を紹介していますが、硬膜外麻酔を批判したり、不安を煽る意図はありません。むしろ、私が硬膜穿刺後頭痛からどのように立ち直っていったかという体験談を紹介するものです。硬膜外麻酔には、術後合併症を硬膜外麻酔の鎮痛作用と交感神経の遮断作用で抑制することの効果もあるなど、様々な利点について、以下の論文で紹介されています。
参考文献:濱田 宏,これからの術後鎮痛─硬膜外麻酔のエビデンスを中心に─,日本臨床麻酔学会誌 / 31 巻 (2011) 1 号
そもそも硬膜外麻酔とは?
硬膜外麻酔は、脊椎(背骨)の中にある脊髄のすぐ近くの硬膜外腔という場所に、麻酔薬をいれて、手術部位の痛みを無くす、あるいは軽くする麻酔法です。
手術をする所に合わせて、背中のどこから麻酔薬をいれるかを決め、カテーテルという細い管をいれます。このカテーテルから麻酔薬をいれて麻酔を行います。(公益社団法人日本麻酔科学会,麻酔を受けられる方へ <8>,http://anesth.or.jp/public/anesthesia/08.html)
(出典元:日本産科麻酔学会,無痛分娩Q&A,Q4,図3.硬膜外鎮痛より)
上の図3Cで、背骨を輪切りにして見たとき、真ん中に硬膜で守られた脊髄があります。中心には脊髄神経、その周りが「くも膜下」といって脳脊髄液があるエリアですね。ここまでが硬膜の中にあります。
その硬膜の外側が「硬膜外腔」です。麻酔はこの硬膜外腔に注入するのです。
私の場合は、陣痛がある程度強くなり、麻酔を使うことが許された後は、痛みに応じて自分でボタンを押して麻酔をプシュッと注入する方法でした。
麻酔の効く範囲は主にお腹の上から太ももあたりにかけて麻酔が効いている感覚でした。
硬膜穿刺後頭痛(PDPH)とは?
まれ(約100人に1人程度)ではありますが、硬膜外腔に細い管を入れるときに硬膜を傷つけ(硬膜穿刺)、頭痛が起こる場合があります。この頭痛は、硬膜に穴が開き、 その穴から脳脊髄液という脊髄の周囲を満たしている液体が硬膜外腔に漏れることにより生じるとも言われており、頭や首が痛んだり吐き気がでたりします。産後2日までに生じ、症状は特に上体を起こすと強くなり横になると軽快します。(出典元:日本産科麻酔学会,Q15硬膜外鎮痛の副作用が心配です,より)
硬膜外麻酔を行う際、まれに硬膜に傷がつき、穴があいてしまう場合があります。その穴から脳脊髄液が漏れてしまうことによる頭痛です。脳脊髄液減少症の一種ですね。
頭痛のメカニズムですが、脳・脊髄は髄液の中でぷかぷかと浮いたように存在しているなかで、髄液が漏れる→脳脊髄圧の低下→頭蓋内の下垂(脳が本来の位置から下がる)→牽引性頭痛(痛覚を感じる組織が圧迫されたり引っ張られて痛みを感じる)ということが考えられます。(参考:日本医事新報社,硬膜穿刺後頭痛(腰椎穿刺後頭痛)のページより)
髄液が漏れるとどうなるの?って思いますが、漏れた髄液は自分のからだに吸収されます。また脊髄内の髄液は一時的に減るものの、毎日、体内で生成されているものです。
ですから、穴がふさがれば髄液は満たされ、脳が正しい位置に戻り頭痛は治ると私は理解しています。
PDPHの具体的な症状
症状は、首の後ろから後頭部を中心とした激しく鈍い頭痛です。
私の場合、痛みは自分史上、過去最高です。経験したことのない我慢のできない痛みです。
我慢のできないとは、痛みでその姿勢を維持できないということです。
PDPHは、姿勢を変えることで起こる頭痛です。私の場合は立位、座位、さらには横になっていても頭を起こすだけでも痛みが出ました。
しかし、誰もが同じような症状が出るわけではありません。
軽症 | 日常生活動作を軽度に制限する体位性頭痛がある。日中寝込むことはなく、随伴症状との関連はない。 |
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中等度 | 日常生活動作を明らかに制限する体位性頭痛がある。日中に寝込んでしまうときがある。随伴症状を伴うときも伴わないときもある。 |
重症 | 1日中寝込んでしまうような体位性頭痛がある。随伴症状が常に存在する。 |
(表の出典元:日本医事新報社,硬膜穿刺後頭痛(腰椎穿刺後頭痛),より)
表によると、私は重症に該当しますが、軽症で済む場合もあるということですね。
不運にも硬膜穿刺があったとしても、誰もが私と同じように苦しむわけではありませんので、ご安心ください。
頭痛はいつまで続いた?
頭痛が発生したタイミング
麻酔をした翌日から痛みがひどくなりました。
朝、首の後ろが痛み曲げることができない状態。ですが、歩くことはできました。
はじめはPDPHであることはわかりませんから、寝違えた?肩こり?とまったく別の症状を疑っていました。
しかし、その日の夜には頭痛は悪化し、歩くことはおろか、体を起こすことすらできませんでした。
頭痛が続いた期間
私の場合、ひどい頭痛が続いたのは5~6日間です。
私が頭痛に苦しんでいた模様は以下の記事でも紹介しています。
PDPHの治療法は?
まずは保存的療法がとられます。症状緩和のため安静臥床(あんせいがしょう)。要するに横になるということですね。
通常、穴は自然に治癒するから数日で軽快するといわれました。実際、私も6日目には良くなりましたから。
安静以外に治療法はないのか?という点については、以下の表をご覧ください。
安静臥床 | 症状は緩和するが、治療効果はなく、頭痛の期間も短縮しない。 |
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薬剤療法 カフェイン | PDPHの頻度減少・重症度低下,効果は一時的とする報告,母乳への移行は殆どないが600mg/日以上は× |
薬物療法 ステロイド | ヒドロコルチゾン:重症度低下 |
薬物療法 鎮痛薬 | ガバベンチン:重症度低下 |
硬膜外自家血パッチ(EBP) | 最も成功率の高い治療法,注入血液量は12~15mlで十分,硬膜穿刺後24~48時間以内に行うと再発率が高い 等 |
(出典元:独立行政法人東京医療センター,硬膜穿刺後頭痛-産科領域におけるPDPH-,より一部抜粋)
安静にしていればそのうち治るといわれていましたが、安静にしていれば”早く治る”というわけではないようですね。
一方、カフェインの内服は重症度が低下する報告があるとのことです。
また、硬膜外自家血パッチ(EBP)という、自分の血液を硬膜外腔に注入する方法が最も成功率が高い治療法とされています。
ただし、EBPの治療は入院にて行い、注入後は4日~1週間程度安静にすることが求められるようです。
また、EBPは脳脊髄液漏出症として、関連学会の定めた診断基準において確実又は確定とされたものに対しては保険適用となりますが、そうでなければ費用がかかります。
何日も安静にしているにも関わらず、頭痛がひどい場合などは、そもそもEBPという選択肢が現実的か、出産にあたって入院している病院で対応できるかどうかも含め、担当医に相談してみましょう。
参考:脳脊髄液漏出症の判定のためのガイドライン
http://www.id.yamagata-u.ac.jp/NeuroSurge/nosekizui/pdf/kijun10_02.pdf
さいごに
ここまで、硬膜外麻酔の副作用としてPDPHを説明してまいりました。
最後におさらいしておきましょう。
- 頭痛の原因は硬膜外麻酔の際の偶発的な硬膜穿刺
- 頻度はまれ。100人に1人程度
- 症状は軽度~重症まで。必ずしも重症化するわけではない
- 保存療法(安静臥床)だけでも数日で軽快(私は5~6日)
- カフェインの内服が有効とする報告もあり
- 重症患者には硬膜外自家血パッチ(EBT)という治療法もあり
私は不運にもPDPHが起きましたが、これから無痛分娩をする方が不安になることはありません。
PDPHの発生するのはごくまれですし、誰もが重症化するわけではありませんからね。
当時は、この激痛は一体いつまで続くんだろう、本当に治るのだろうか…と不安になっていました。
そんな経験から、今まさにPDPHで苦しんでいる方の不安を少しでも取り除くことができればという思いから記事を書きました。
私が経験から言えること、それは「大丈夫!数日後にはきっと全快しています」ということです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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